日本の水際措置が米国の教育機関に及ぼす影響に関する緊急調査

日本の外国人入国制限のため、日本に留学できない状況が長期化しています。今後もこのような状況が続くと、日米間の教育・文化交流に深刻な影響が出てくることが懸念されます。そこで、中部大西洋岸日本語教師会(Mid-Atlantic Association of Teachers of Japanese, MAATJ)が、米国の日本語教育関係者を対象に、日本へ留学できない状況が米国の大学や他の教育機関にどのような影響を及ぼしているかについて緊急調査を行いました。本レポートは米国の日本語教員が影響をどう捉えているかをまとめたものです。


​調査概要

目的:日本の水際措置が米国と日本の大学等教育機関に及ぼす影響を明らかにする
機関:中部大西洋岸日本語教師会 (Mid-Atlantic Association of Teachers of Japanese, MAATJ)
調査票:Google Formで作成
対象者:米国の日本語教師と日本語教育関係者
方法:MAATJ, AATJ (American Association of Teachers of Japanese), その他日本語教育関係者・団体にメール、ニュースレター等で協力を依頼
期間:2022年2月9日(水)より2月18日(金)まで
有効回答:75校より83名の回答(1校より複数回答可)全集計結果


結果概要(以下「主な集計結果」を参照。詳しくは全集計結果を参照)

1. 回答者

  • 回答者83名のうち、4分の3が大学教員、4分の1が小中高校の教員(Q3)

  • 回答者の大学の9割近くが日本語3年以上の準上級・上級コースを開講しており、3割が日本語専攻があるとしている。(Q4)

  • 回答者の高校の8割近くがJapanese 4/5、AP (Advanced Placement)、IB (International Baccalaureate) など、高校で履修できる最も高いレベルの日本語コースを開講している。(Q4)

  • 日本語プログラムの規模を示す日本語履修者数は、15人から1,500人までと幅があるが、50人から300人ぐらいのプログラムが7割近くを占める。(Q5)

  • 回答者の9割近くが日本の大学または教育機関との留学プログラムがあるとしている。(Q6)


2. 主な結果

  • 回答者の9割近くが、日本への留学プログラムの中止等の影響を受けたと感じている。(Q7)

  • 具体的な影響として挙げられた回答は、学生、教員・保護者、プログラムへの影響に大別できる。(Q7.1)


学生への影響

  • 準備にかけた費用や労力が無駄になり、精神的なストレスを感じている。

  • 希望していた日本留学が絶たれ、日本語力を伸ばす機会を逸した。

  • 日本語専攻や副専攻の必須条件を満たすことができず、専攻を変えたり、他の方法で補填しなければならなくなった。

  • 日本への留学や日本語学習への意欲や自信の低下を感じている。

  • 興味が日本語から他の言語に移った。


教員・保護者への影響

  • 留学がキャンセルになったことに対する対応、学生へのフォローなど仕事が増えた。

  • コースを新たに開講しなければならならなかった。

  • 日本留学を勧める意義を感じなくなった。


日本語プログラムへの影響

  • 必須科目・カリキュラムの見直しを迫られた。

  • 留学できないため、上級コースの履修者が減った。一方、例年なら留学するはずの学生が履修する日本語コース(中級、準上級)の履修者が増えた。

  • 専攻を変更したり、日本語を主専攻から副専攻に変える学生が出た。

  • プログラムのハイライトである日米交流、日本への旅行の機会を失った。

  • 日本に留学できなくなった学生の約半数近くが、留学を断念したり、他国に留学したりして、日本留学への意欲が薄れつつある。(Q8)

  • 他国に留学した/留学予定の学生のうち、半数近くが英国をはじめとするヨーロッパ諸国、3割が韓国に流れた。(Q8.1)

  • 2022年春以降の留学プログラムの可否については以下の通り。2022年春は中止かオンラインが8割以上を占めたが、徐々に実施予定とするプログラムが増えている傾向がうかがわれる。(Q9)

  • 2022年春:中止が6割強、オンラインが2割強、検討中・未定が2割弱

  • 2022年夏:実施予定と中止がそれぞれ35%強、オンラインが1割弱、検討中が2割

  • 2022年秋:実施予定が半数以上、中止が2割弱、検討中・未定が3割

  • 2023年春:実施予定が7割、検討中・未定が3割

  • 日本留学を希望する学生の数は、コロナの前と後で、特に変化していないという回答が半数近くを占めたものの、25%が減ったと回答している。(Q10)

  • 日本から米国への留学プログラムの中止等についても、半数の大学・教育機関が経験し、それによって影響を受けたと回答している。(Q11 & Q11.2)

  • 具体的な影響としては以下の通り。(Q11.2)

  • 文化交流イベントが中止になり、貴重な文化体験の機会を逸している。

  • 日本からの留学生を受け入れているにも関わらず、米国から行けないことに不公平感を感じている。日本留学への意欲が低下し、それが日本語学習のモチベーション低下に繋がっている。

  • 留学を担当する職員の仕事がなくなり、解雇された。

  • 日本に行けないために、逆に、母校で日本語コースを取る学生が増えたという指摘もある。

  • 日本に留学できない状況が日米間の教育・文化交流に及ぼす中長期的影響として、以下のような指摘があった。(Q12)

  • 留学できないために上級レベルに達する学習者が減少し、日本語学習者全体の日本語力に影響する。日米両国における貴重な文化体験の機会が激減し、学習者の文化知識が低下する可能性がある。

  • 上記2点により、将来の親日家、日米の架け橋のリーダーの資質が低下する可能性がある。

  • 日本留学の道が閉ざされることで、日本留学・日本語学習への意欲が低下し、他国留学、他言語学習に変更する学生が増える。

  • 日本語学習者の減少は日本語プログラムの縮小、廃止に繋がる。

  • オンラインでの日米交流の機会が増え、交流の幅が広がったと好意的な捉え方がある一方で、留学体験はオンライン交流では補うことのできないほどの価値があることが再認識されている。

  • 交換留学のあり方を見直す必要がある。



結論
日本の水際措置は、日米間の教育・文化交流に以下のような深刻な中長期的影響を及ぼすことが懸念されます。

  • 日本留学の道が閉ざされることで、日本語学習者の言語力、文化体験の質と量が低下する。

  • 日本留学・日本語学習への意欲が低下し、今後、他国・他言語に変更する学習者が増える。

  • 将来の親日家、日米交流のリーダーの育成に重大な影響が出る。

  • 日本語学習者数の減少、学習意欲の停滞は、海外における日本語教育機関の衰退に繋がりかねない。事実、既存のカリキュラムや交換留学のあり方を見直す動きが出はじめている。

今後も変異株出現の可能性は否定できませんが、その度に、留学生に厳しい入国制限を課すことになると、日本留学希望者、ひいては、日本語学習者がますます減少することが懸念されます。感染状況に関わらず、ワクチン・ブースター接種や陰性が確認された学生は必ず受け入れるなど、留学の見通しが立てられるようになることを期待します。日本政府が迅速に、日本留学を切に望み、日本に行くことを励みに日々努力している日本語学習者の期待に添うような措置を取ることを望みます。


(主な集計結果はこちらからご覧いただけます)