日本語教師の高齢化と次世代の人材不足についてのアンケート調査
近年アメリカにおける日本語教師不足の問題が深刻化していく中、現役の日本語教師の高齢化も進んでいるため、次世代の人材不足が懸念されています。そこで、在米日本大使館の依頼を受けた中部大西洋岸日本語教師会(Mid-Atlantic Association of Teachers of Japanese, MAATJ)が日本語教師の高齢化の現状を探るアンケート調査を実施しました。今回のアンケート調査を拡散するにあたり、米国日本語教師会(AATJ)の協力も得ました。
目的: 日本語教師の高齢化の現状を把握し、高齢化による次世代の日本語教師人材不足の可能性が高いことを実証する。
調査実施期間:2023年10月17日〜10月24日 調査方法:Google Formで作成
対象者: AATJ会員の日本語教師
方法: AATJが全米26ある地方日本語教師会に調査協力をEメールで依頼
回答者の学校レベル:
K−12(幼稚園・小中高) 114名 37.4%
コミュニティーカレッジ、大学 168名 55.1%
日本語学校、補習校 10名 3.3%
その他 13名 4.3%
回答者の年齢:
回答者合計:305名
30歳未満(8名)2.6%
30〜35歳(19名)6.2%
36〜40歳(19名)6.2%
41〜45歳(37名)12.1%
46〜50歳(57名)18.7%
51〜55歳(63名)20.7%
56〜60歳(44名)14.4%
61〜65歳(35名)11.5%
66〜70歳(12名)3.9%
71歳以上(11名)3.6%
回答者の日本語教師としての経験年数
5年未満 27名 8.9%
6〜10年 54名 17.7%
11〜15年 51名 16.7%
16〜20年 46名 15.1%
21〜25年 56名 18.4%
26〜30年 32名 10.5%
31〜35年 25名 8.2%
35年以上 14名 4.6%
結論
上記のアンケート調査結果によると、現役の日本語教師で最も多い年代は46歳から55歳で、ここ10年のうちに退職年齢(65歳)になる割合は回答者の約4割を占めることが明らかになりました。その教員の後任が見つからない場合やそのポジションが廃止された場合、日本語教師不足の問題は更に深刻化することになります。また、日本語教師としての経験年数が6年から10年の教員は17.7%に対して、5年未満の教員はその約半分の8.9%しかありませんでした。これは過去5年間で日本語教師になった教師数が半減したことを示唆しています。
日本語教育の教師に係る課題(自由回答)のまとめ
回答者のコメントの中で最も多かった教師に係る課題としては、まず給料の低さが挙げられます。教師が正規雇用でなければ、副業しながら生計を立てなければいけないのが現状のようです。非常勤の場合、学校が労働許可書を出さないため、雇用対象者の数も限られてきます。正規雇用であっても、他の(外国語の)教員よりも日本語教師の給料の方が低い場合もあるようです。給料の問題は高等教育を含むK−16全体で見られますが、K−12ではその問題が更に深刻で、教師は複数のレベルや複数の教育機関で教えなければいけない状況下、授業外に束縛される時間数も多いため、待遇の悪さや負担の多さに矛盾を感じていることが伺えます。このような低い給料設定や不安定な雇用体制では、若い世代が魅力を感じる職業とは言えないと言う意見も目につきます。
それ以外に、教師不足の問題の原因として、資格や免許を取得するのが困難であり多大な時間を要すること、米国内での勤労を許可されるビザ取得も困難であること、日本語教師育成プログラムやカリキュラムが少ないことなども挙げられています。更に退職後はそのポジションが廃止される傾向にあることも大きな原因だと考えられます。
次に、学生数の低下が挙げられます。日本語学習に対する興味がある学生がいても教師不足のためクラスが開講できない場合もあるようですが、それ以上に、学校機関での予算削減のため日本語クラスが縮小、削減されてしまうことへの危機感を訴えるコメントが多くありました。外国語が卒業必修科目から外される状況では、学生数確保が更に困難になっています。
次世代の教師人材を育成できるリーダー格の人材の必要性だけでなく、政府や企業の協力の下での人材育成や日本語教育をサポートするシステムの構築を求める声も少なくありません。
最後に、教師不足や人手不足は日本語教育に限る問題ではないと言う認識もされているようですが、このアンケート回答では、その複雑な日本語教師不足問題を改善するための対策として数多くの意見が挙げられています。その意見を以下記述します。
・日本語習得者に対するインターンシップ制度、大学と企業の提携や就職斡旋 ・オンライン無料教材、練習教材の増加、拡散、
人的サポート
・就労ビザ取得プロセスの緩和
・日本語教師養成プログラムの増加
・継承後話者、ノンネイティブの教師育成と増加
・日本で取得した教員免許をアメリカ教員免許に書き換える手続きの改善、簡素化、教員免許ポリシーや必須事項の見直し
・教員免許取得の過程で、そして取得後の人的、金銭的、情報提供などのサポート
・現役の(特に若手)教師へのトレーニング、教師間の横の連携強化
・Z世代や次世代に合ったカリキュラムを模索、改善
第一回日米教育における共同覚書に基づく政策対話共同声明
1st U.S.-Japan High Level Policy Dialogue on Education JOINT STATEMENT U.S. Department of State, Washington, DC
October 30 and 31, 2023
(1)全文 joint statement (mext.go.jp)
(2)関係部分抜粋
The U.S. and Japan recognized the importance of enhancing Japanese and English language education, especially at the compulsory education level. The two sides also discussed the state of Japanese language study in the United States, including Japanese language course availability and the decline in licensed Japanese teachers.
In the year to come, the officials confirmed to:
Continue efforts to promote student exchange through implementing ongoing programs such as the Inter-University exchange project and scholarships;
Expand exchange opportunities in STEM fields, specifically through JUSEC scholarships for Japanese Fulbright participants;
Increase opportunities for Japanese students to explore study abroad options through student fairs to take place in Japan;
Launch the first courses under a pilot English Language Specialist program with Kumamoto University to support the university’s new workforce development curriculum for semiconductors;
Cooperate on ways to support Japanese language study in the United States by strengthening pathways for Japanese teachers, including maximizing exchange opportunities at the K-12 level, mapping transferability of Japanese teaching licenses to the U.S., prioritizing Japanese as a critical language, and expanding various successful programs, such as J-LEAP, Fulbright Teaching Assistant Program, and calling for the expansion of private initiatives such as ALLEX; and
Reaffirm the importance of cooperation on pursuing increased exchanges for K-12 Japanese language teaching in the United States, including enhanced opportunities for Japanese language teachers to build on their knowledge and skillsets via practical experience in the United States.
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